トレーニングピラミッド

スポーツ選手がレベルアップするためには、 トレーニング が必須です。
トレーニングといえば、体幹トレーニングやダンベルトレーニング、走り込みなどがイメージされるかと思います。しかし、ただがむしゃらにトレーニングをすることは、レベルアップの近道ではありません。

今回は、身体機能の要素をどの順番に トレーニング することが、レベルアップの近道になるかを、
『トレーニングピラミッド』という概念を用いて説明します。
下の図は、身体機能を6段階に分けた図です。

トレーニングピラミッド


下の身体機能が上の身体機能の土台となるため、
必ず自分に足りない身体機能は、下から解決することが重要です。

不要な緊張の制御

適度な筋肉の緊張状態が、全ての土台となる

人は一定の筋肉の緊張状態を保っており、これをHRMT(Human Resting Muscle Tone)と呼びます。
筋肉の緊張度が高いほど力が入れやすいといったイメージができるかも知れませんが、
下の図にあるように、筋肉は適度な緊張状態から収縮することで強い力が出せます。

HRMTは、普段の姿勢や食事、睡眠時間やストレスなどの様々な要素が関係しており、
HRMTが高い人の見分け方としては、反り腰や猫背など姿勢が悪くなっていることが多いです。
姿勢が悪い状態での重いダンベル トレーニング は、さらにHRMTが高くなるリスクもあるため、
まずは、HRMTを下げるため生活習慣の改善やリラクゼーションエクササイズから始めましょう。

HRMTの改善にはエクササイズだけでなく、食事や睡眠の質も超重要!
バランス良い食事や7〜8時間の睡眠時間が理想的だが、
少しずつでもいいので、今の生活の中で変えられるポイントを改善しよう!

軟部組織の問題

可動性に関わる全ての問題を解決する

可動性(≒柔軟性)を向上するためには、まずは筋肉と考える方も多いでしょう。
実際、筋短縮やスパズムと呼ばれる筋肉の運動がスムーズに行えない状態になってしまうと、
柔軟性は低下してしまいます。

しかし、柔軟性とは、筋肉以外にも靭帯や関節包などの状態によっても変化します。
靭帯は、筋肉よりも強度が高く、関節を安定させる働きを持ちます。
関節包は、骨同士がスムーズに動くためや軟骨へ栄養を送るための関節液を分泌します。

他にも、靭帯や関節包は固有感覚と呼ばれる
「今、関節はどれくらいの角度か?」といった情報を脳へ伝えるセンサーが豊富に存在します。
少しイメージし難いですが、
「今の関節曲がっている角度はどれくらいか?」といった情報が正しく脳へ送られてこないと、
脳は、
関節角度がわからない状態で関節を動かすことは、筋肉や靭帯を傷つけるリスクがあるため危険だ」と判断してしまいます。
これでは、関節が動きにくい状態となってしまい、結果的に可動性が低くなってしまいます。

POINT 相対的柔軟性

人間は身体の中で、常に抵抗の少ないところから運動が起こります。
そのため、可動性の低い部分があると、そこを避けるように運動を行なってしまいます。


このように可動性に関わる軟部組織に問題があると、
可動性が高い部分が使われすぎてとなって怪我をしたり
一部分のみの筋力で運動を行うため、出せるパワーが低くなってしまいます

全身の可動性が適度な状態であれば、どんな運動も全身の筋肉を使うことができます。
これが、最も効率的にパワーを出せて、怪我をしにくい状態です。
筋肉を強く鍛えるメニューの前に、可動性を整えるためのリラクゼーションやエクササイズを取り入れましょう。

呼吸のコントロール

正しい呼吸筋の使い方が体全体の安定性を生む

呼吸は1日に約3万回繰り返されると言われています。
生きていくために必要な酸素と二酸化酸素の交換を行うのですが、
他にも呼吸筋と腹筋群の連動が、体幹の安定性にも関連します。
もちろん、スポーツ動作中の体幹の安定性を練習することは重要ですが、これは呼吸動作中の体幹の安定性が確保できなければ、スポーツ動作中に安定することはほぼ不可能と言えるので、正しく呼吸筋を使うことが重要になります。
呼吸には、呼吸筋と呼吸補助筋の2つが存在します。

呼吸筋呼吸補助筋
横隔膜・骨盤底筋群斜角筋・胸鎖乳突筋・外肋間筋・内肋間筋

本来であれば、呼吸筋の横隔膜が収縮することで肋骨が下がり同心円上に広がることで、肺に空気が入って酸素と二酸化炭素の交換が行われます。
また、横隔膜・腹斜筋群・骨盤底筋群の3つが互いに体幹部を押し合う形になり高い体幹の安定性が生まれます。

しかし、呼吸補助筋がメインとなって収縮してしまうと、肋骨は前上方へ広がってしまいます。
これでも空気は交換できますが、浅い呼吸になってしまうため効率が悪く呼吸数が増えてしまいます。
加えて横隔膜・腹斜筋群・骨盤底筋群の連動も失われて体幹は不安定になります。
そして、肋骨を前上方へ動きは、腰の筋肉も収縮を起こしてしまうため、1日3万回以上の呼吸によって腰痛などの原因となります。

呼吸とは、様々な要素が関係することで、使われる筋肉や呼吸数が変化します。
ここまで読んでくださった方にわかりやすく説明すると、身体全体の緊張が強い状態や呼吸に関わる軟部組織が動きにくいと、呼吸補助筋がたくさん使われることになり、呼吸が浅く体幹の安定性が低くなります。

呼吸は他にも栄養・精神・ストレスによっても影響を受ける動作です。
呼吸動作は全ての動作の土台になるので、正しい呼吸動作が行えるような体作り意識しましょう!

可動性と安定性

大きく動かせる能力とズレを収める能力

これまでは、スポーツ界のみならず一般的にも『柔軟性』が重要とされてきました。
しかし昨今では、柔軟性に加えて『可動性』が重要だという考えが浸透し始めています。
似たような言葉ですが、意味合いは大きく違います。
そしてスポーツのレベルアップのためには、このどちらも重要となります。

可動性と柔軟性の違い??

可動性(Mobility)とは、『関節可動域のうち、自己がコントロールして動かせる範囲』

柔軟性(Flexibility)とは、『筋・軟部組織の許す範囲の伸長能力』

可動性には、柔軟性と呼ばれる筋・軟部組織の伸長範囲に加えて、

  • 関節の運動軸を安定させるローカルマッスル(=インナーマッスル)の働き
  • 目的の運動方向とは、反対側へ運動させる筋肉の抑制
  • 全身の筋緊張の状態 などが関係します。
    イメージとしては、可動性と言われる定義の中に柔軟性が含まれているといった形ですね。

身体の可動性が低い状態では、動作の基礎に制限があるため
トレーニングをしても偏りがある運動になってしまい発揮される力も弱く怪我のリスクも高いです。
そのため、可動性が低い関節がある場合には、
関節可動域・組織の柔軟性・筋の伸張性にフォーカスした可動性エクササイズが必要です。

『Mobility 1st』といった言葉があるほど
可動性はスポーツ選手において重要な要素です。
体が硬い=筋肉が硬いと考えやすいですが
視点を広げて可動性を広げるためには何をすべきか?を考えましょう!!

次に、『安定性』についても学びましょう。
安定性とよく比較される言葉に『固定性』があります。
この2つの言葉の違いから、安定性とはどのようなものか学びましょう!

安定性(stability)外からの力が加わった時に
身体や関節のズレを一定の範囲内に収める能力
固定性(rigidity)硬く固めて一定の状態から動かないこと

スポーツ動作をイメージすると、必要になる能力は安定性の場面が多いです。
固定性は、力がかかっている方向が少し変化すると、その変化に対応できないため転倒したり怪我をするリスクがあります。
安定性を高めることで、外からの力を上手にコントロール出来るようになり、
地面からの力をボールに伝えたり、相手とのぶつかる時に体幹の強さへ繋げることができます。

安定性とは、
外からの力を緩衝してコントロールする能力とも考えらます。
例えば、野球のピッチャーでは、地面からの力を足から連動して腕に伝えるために、動きを緩衝しつつコントロールする安定性は重要です。

ファンクショナルムーブメントの洗練

目的を達成するために、体を効率的に動かす

関節の可動性と安定性が確保できれば、それらを統合して効率的に運動することが
トレーニングピラミッドの次の段階です。

ファンクショナルムーブメントとは、設定した目的に対して
様々な環境において効果的かつ効率的』に動作を行える能力のことを指します。
簡単に言い換えると
目的に対して、正しく省エネな動作をイメージ出来て、そのイメージ通りに動けているか?』ですね。

では、人が動く時に起こる3つのフェーズを学びましょう。

  1. 体の状態を把握する。
  2. 脳内で目的の動作のイメージを作成した後、動作を行う。
  3. 実際の動作と脳内のイメージの相違を確認する。

この3つは、コンマ数秒の中で行われているため、実感はできないですが、
人は必ずこの3つのフェーズを通じて動作を行っています。

例えば、簡単な動作では、

人はテーブルにあるグラスを取ろうとする時に、体の状態を把握する中で、
・今、自分の手はどこにあるのか?
・グラスが自分の手からどれくらい離れているのか?
・座っている椅子は安定しているのか?
といった情報を脳内で整理します。

その後、整理された情報を元に、
・どのように手を動かすか?
・どのようにグラスを掴むか?
・手を出した時に姿勢を崩さないために、手以外はどのように動かすか?
などのイメージを脳内で作り、動作を行います。

そして、グラスを取れた場合には、
正しい脳内イメージの作成と、正しい動作が行うことが出来ています
グラスを取れない場合やバランスを崩してしまった場合には、
脳内のイメージが間違っていたか、イメージ通りの動作を行うことが出来なかったことチェックして
次回の動作の修正ポイントとして脳内に記憶されます。

まとめると、正しく省エネで動くためには、
正しい脳内イメージと、イメージ通りに体を動かせる能力が重要となるため、
ファンクショナルムーブメントトレーニングを行って
この能力を洗練させていくことが重要となります。

パワー

筋力とタイミングがパワーの要

トレーニングピラミッドの最終フェーズはパワーの向上です。
パワーは、2つの要素の掛け合わせで決まります。

パワー = 力 × 速度

つまりパワーとは、大きい力を出せるかといった能力ではなく、
大きな力を、どれだけ高い速度で発揮できるかといった能力です。

速度とは、運動距離を運動時間で割り算するため
運動する距離が一定であれば、運動する時間が短い方が、高くなり、
運動する時間が一定であれば、運動する距離が長い方が、高くなります。

簡単なイメージでは、
100kgのスクワットを10秒かけて行う選手Aと
100kgのスクワットを5秒かけて行う選手Bでは、
選手Bの方がパワーが高いです。

しかし、基本的に力と速度が反比例の関係であるため、
負荷(筋力)が大きくなればなるほど、速度は低くなってしまいます。
パワーは、力と速度の掛け算となるため、
最大パワーが発揮される筋力は、最大筋力の30〜50%程度とされています。

では、最大パワーを向上させるためには、何をすれば良いでしょうか?
答えは、

  1. 最大筋力の上昇
  2. 全身を連動させて運動方法を学ぶ
    (各関節運動をほぼ同時に起こす。)

1つ目の最大筋力の上昇は、最大筋力の30%や50%の上昇にも関連するため、
自動的に、最大パワーを上昇させることが出来ます。

2つ目の全身を連動させる運動を学ぶことで、
時間当たりの関節運動角度(=運動距離)が大きくなり、運動速度が上昇します。
結果的に、短い時間で大きな力を発揮できるため、パワーが高くなります。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

トレーニングで強く上手くなるためには、
重たいダンベルを持ち上げたり、長距離のランニングを行うなどがイメージされやすいですが、
その土台には、『筋肉の緊張状態』や『関節の可動性』があり、
その上に、体を思い通りに動かせているかといった『ファンクショナルムーブメント』などがあります。

もし、スポーツやトレーニングで行き詰まっている方は、
自分には、どこが足りてないんだろう?と考えていただくヒントになればと幸いです!!

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